30代半ば、世帯持ち、大手メーカー勤務。 客観的に見れば、会社の看板もあり、営業成績も残していて「順風満帆の勝ち組」に見えたかもしれません。
しかし、当時の私の心の中は、「なぜ自分はこんなに一生懸命働いているんだろう」という、麻痺したような強烈な違和感と焦りに支配されていました。
周囲に相談しても「大手を辞めるなんてリスクが高すぎる」「もったいない」と言われる日々。それでも私が「ベンチャーという荒波」へ一歩を踏み出すに至った背景には、綺麗事だけでは片付かないリアルな葛藤がありました。
この記事では前編として、大手メーカーの営業だった私が感じていた「ぬるま湯の恐怖」と、キャリアを天秤にかけた時のリアルな本音をお届けします。
大手企業の「ぬるま湯」で手に入ったものと、すり減っていく家庭
大手企業にいる最大のメリットは、圧倒的な「看板(ブランド力)」と「誰がやっても売れる仕組み」です。
私が必死に製品の魅力を語らなくても、会社の名前を出せば一定の売上は担保される。成績も出ていたため、当時の私は「自分には実力がある」と少し自信過剰になっていた部分もありました。
しかし、その安定の裏側で、確実にすり減っていくものがありました。それは「家族との時間」です。
- 「何を言うか」より「誰が言うか」の世界
大手の組織で人事評価を上げ、進めたい仕事を通すためには、社内政治や人付き合いが不可欠でした。仕事の成果だけでなく「人事権を持つ人に気に入られるか」が昇進を左右する現実。
情報収集や社内調整のため、仕事終わりの飲み会に顔を出す日々。それ自体、楽しい時間でもありましたが、代償は家庭に回っていきました。
「なんでそんなに飲み会ばかりなの?」
疲弊した妻からそう言われたとき、私は「これも仕事だから」「給与のためだから」と言い訳をしました。でも、心の中では分かっていたのです。妻の言う通り、子育てを任せきりにしていること。そして自分自身も、心の底から行きたいわけでもない飲み会に時間を使い、疲弊していること。
「家族を犠牲にして、行きたくもない飲み会に行って、この人生は本当に幸せなのだろうか?」
そんな疑問が、頭から離れなくなりました。
憧れた上司の「単身赴任」が教えてくれた、10年後の自分の未来
さらに、私の価値観を大きく揺るがす決定的な事件が起きます。
私が心から尊敬し、信頼していた優秀な上長が、突然「縁もゆかりもない土地」への転勤を命じられたのです。それも、昇進を伴わない、家族を残しての「単身赴任」でした。
その上長の姿を見た瞬間、ゾッとしました。
- 「これが、自分がこの会社で目指す10年後の未来なのか?」
- 「会社に人生の主導権を握られ、家族と離れて暮らすことが、自分の望む人生なのか?」
自分が素晴らしいと思っていた先輩が、そういう生き方を強いられる現実。その時、会社が求める価値観と、自分が大切にしたい人生の価値観の間に、決定的なズレがあることを確信しました。
どんなに結果を出しても年功序列。自分で何かを進めたくても役職という席が空くのを待つしかない。「このまま60歳の定年を迎えたとき、自分は子供たちに何を語れるのだろうか」という、漠然とした、しかし強烈な恐怖が襲ってきました。
ベンチャーの荒波へ。最後まで足かせになった「大手出身」というプライド
「もう、会社の看板に頼らない、新しい挑戦がしたい」
そう思い立ったものの、同じ食品業界への転職では売るものも働き方も変わりません。むしろ大手から動く分、条件が悪化するだけです。やるなら、全く未経験の「無形商材の営業」に挑戦し、自分の本当の実力を試したいと考えました。
しかし、頭では「失敗しても最悪、元の業界に戻ればいい」と思いつつも、いざとなると一歩が踏み出せません。
私を足止めしたのは、他でもない【大手企業出身という社会的ステータス】と【現在の生活水準】への執着でした。
- 「誰もが知る有名企業の社員」という名刺を失うのが怖い。
- ベンチャーに行って、もし全く売れなかったら格好悪い。
- 家族を抱えているのに、今の生活水準を崩していいのか。
「失敗してもいい」と覚悟を決めたつもりでも、「やっぱり失敗したくはない」という本音がブレーキをかけ、毎日求人サイトを眺めてはため息をつく日々が続きました。
まとめ:仕事の刺激は欲しい。でも、僕たちには「守るべき生活」がある
仕事面だけで言えば、ベンチャーへの挑戦や無形営業へのシフトは、市場価値を上げるための魅力的な選択肢です。
でも、既婚・子持ちの30代半ばの僕たちが本当に恐れているのは、仕事の厳しさそのものよりも、「生活の崩壊」であり、「家族を巻き込むリスク」ですよね。
ステータスも惜しい、生活水準も下げたくない。でも、このまま大手のぬるま湯に浸かって定年を迎えるのはもっと怖い――。
そんな綺麗事だけでは片付かない葛藤を抱えた私が、なぜ最終的に「ベンチャーの荒波」へと一歩を踏み出すことができたのか?
そこには、世帯持ちならではの「現実的な割り切り」と、妻との対話、そして泥臭い資産シミュレーションがありました。
次回、後編の【生活・ライフプラン編】では、もっとも生々しい「年収ダウンの恐怖」と「ライフスタイルの変化」をどう乗り越えたのか、その具体的な戦略をお話しします。
