30代後半で大手食品メーカーから、無形商材のSaaS(サース)ベンチャーへと転職した私ですが、今だから本音を告白します。
入社当時の私は、「SaaS」という言葉の意味すら、まともに分かっていませんでした。「THE MODEL(分業制)」なんて横文字も、調味料の規格か何かかと思っていたレベルです。この手の「言葉の壁」については、転職後に直面したカルチャーショックでも詳しく書いています。
世の中の転職成功談は、どれもスマートで格好いいものばかり。でも、現実の私のスタートは、不安と孤独で心臓がバクバクする、泥臭くて、みっともないほど冷や汗まみれのものでした。
「本当に自分は外の世界で通用するのか?」と不安でたまらないあなたへ、私が入社から数ヶ月の間で味わったリアルな絶望と、そこから見えてきたことをすべてお話しします。
入社初日のリアル:リモート環境の孤独と「作業したフリ」
ただでさえ30代後半での未経験転職という大きな挑戦なのに、私の入社は「リモートワーク環境」でのスタートでした。
食品メーカー時代は、出社すれば誰かがいて、「現場に行けばモノがある」という安心感がありました。しかし、ベンチャーのオフィスはみんなリモートで、誰がどこにいるのかすら分かりません。
そもそも、オンラインのツールの使い方もままならない状態からの始まり。人事が一通りの受け入れ手続きはしてくれたものの、それが終わると、次は何をすればいいのか、誰に声をかけて聞けばいいのかすら分かりませんでした。
「とりあえず、座って何か作業しているフリでもしておこう……」
初日の私の心境は、これでした。大手の看板を失い、見知らぬ静かなオフィス(または画面の前)で、何がわからないのかすらわからない孤独感。あの時の、胸がギューッと締め付けられるような焦りと不安は、今でも忘れることができません。
「機能説明の罠」に気づくまでの数ヶ月
私が扱っていたのは、お客様の業務効率化につながるタイプのツールでした。右も左もわからない中で、私が唯一できると思ったのが「そのツールの機能を完璧に覚えること」でした。メーカー出身の真面目さというか、「商品のスペックを頭に入れないとお客様の前に立つ資格はない」という職人気質な考えがあったからです。
実は、ツールの機能をきちんと自分の言葉で説明できるようになるまでにも、2〜3ヶ月はかかりました。ひたすら自分でツールを触ってみる、先輩の商談に同席して「どんな流れでデモをしているか」を観察する。そして前職の食品メーカー時代の仕事と照らし合わせながら、「自分ならこう使う」という軸を、地道に自分の中で作っていった期間でした。
そうして入社4ヶ月目くらい、ようやく自信を持って機能を説明できるようになってきた頃のことです。ある商談で、お客様からこんな反応をいただきました。
「便利なツールだっていうのはよく分かりました。ただ、実際どう使えばいいのか、正直イメージが湧かなくて」 「他社さんではどんなふうに活用されているんですか?」 「じゃあ、うちはどう進めればいいんでしょう……」
頭をハンマーで殴られたような衝撃でした。機能はちゃんと伝わっている。それ自体はポジティブに受け止められました。でも、「伝わった」ことと「使ってもらえる」ことの間には、大きな溝があったのです。有形商材のように、モノのスペックや便利さだけで買ってもらえる世界ではありませんでした。
このフィードバックをもらうまでの私は、「とにかく自分がツールを説明できるようになること」ばかりに意識が向いていました。フィードバックをもらってからは、商談前にお客様の情報をできる限りインプットしておき、「このお客様のどんな困りごとに、このツールが役立ちそうか」を先に組み立ててから商談に臨むよう、意識を変えていきました。ちなみに今では、AIにお客様の情報を整理してもらうフォーマットを自分なりに作り、事前準備の精度を上げる工夫もしています。具体的にどう商談の進め方を変えていったかは、機能説明は30分封印。「現状と課題」の紐解き方で詳しくお話ししています。
「ゴールの設定さえできれば、自分の経験は活きる」と確信した日
入社して数ヶ月が経った頃、上司が私の商談に同席してくれたとき、ようやく霧が晴れる瞬間が訪れました。
上司は、ツールの機能の話なんて最初ほとんどしませんでした。 「御社は数年後、どういう状態を目指しているんですか?」 「そこに向かう上で、今一番困っていることは何ですか?」 と、相手と対話しながら、徹底的に「どこに困っているのかという目線合わせ(ゴール設定)」をしていたのです。
その会話を横で聞いていたとき、私の脳内でバラバラだったパズルが、カチッと音を立てて繋がりました。
「そうか!SaaSの営業は、ツールの説明をする仕事じゃない。お客様と一緒にゴールを設定する仕事なんだ」
そして同時に、ものすごい安堵感が押し寄せてきました。「もし、そのゴール(目線合わせ)さえ最初に見つけてしまえば、あとは前職で培ってきた営業経験を活かして、お客様と一緒に課題解決に取り組めるじゃないか!」と思えたのです。
むしろ、目指す山(ゴール)さえ決まれば、そこに向けてロジックを組み立てていくのは、データ分析や予測提案を得意としてきた自分の「強み」そのものであると、一気に自信に変わりました。いかにその最初のゴール設定(目線合わせ)ができるか。それこそが、無形営業を攻略する最大のポイントだったのです。有形営業と無形営業で、そもそもこの「仮説構築」の難易度がどう違うのかは、有形営業と無形営業の違いで比較しています。
まとめ:今、不安で足がすくんでいるあなたへ
オンラインのやり方も分からず作業したフリをしていた私でも、機能はきちんと説明できるようになったのに「それだけじゃダメなんだ」と思い知らされた私でも、数ヶ月かけて「自分のこれまでの営業経験は、ここで強みになる」と確信することができました。
有形営業から無形営業、そしてSaaSの世界へ行くとき、最初の不安は本当に凄まじいものです。プライドもズタズタになるかもしれません。というか、私はなりました。商談以外の、社内ツールやAIの壁でぶつかった話は、プライドを捨てた最初の3ヶ月の記録に書いています。
でも、安心してください。あなたが大手メーカーで培ってきた「相手の状況を予測する力」や「真面目に商品を勉強する力」は、無形の世界でも間違いなく武器になります。使う順番と、脳の筋肉の切り替え方が少し違うだけです。
誰もが最初は無知からのスタートです。その不安を乗り越えた先に、会社の看板に頼らない「一生モノの稼ぐ力」が待っています。まずは、一歩を踏み出す勇気を持ってみませんか?

